任天堂岩田社長講演会@大岡山のメモ

昨日東工大大岡山キャンパスで岩田社長の講演会がありました。
テーマは「ゲーム業界におけるイノベーションのジレンマからの脱却」
その際にとったメモを載せておきます。
人の話を聞きながらメモをとるということに慣れていなくて、激しく読みにくくかつ聞き落としている箇所かつ若干の誤りもあるかもしれませんが。

岩田社長が言及していた本が以下の2冊。
イノベーションのジレンマ―技術革新が巨大企業を滅ぼすとき
ブルー・オーシャン戦略 競争のない世界を創造する

特に「イノベーションのジレンマ」はぜひ読んでみたい。

当時ゲーム離れ現象は一時的なものだと思われていた。
1983年にファミコンが発売され、卒業直後に第一線の技術者としてゲーム業界に当事者として関わることができた。
このころはみんなコントローラを取り合っていた。

1996年にニンテンドウ64が発売されゲームの3D化がすすむ


ゲーム離れ現象の要因

・ゲームが要求する「時間とエネルギー」が大きくなりすぎた
・ゲームが複雑でわかりにくいものになり、さわることにしりごむ人が増えた
・「玄人」をターゲットに開発してきた

以上の3つが主な原因と考えた。


80:20の法則
どんな業界もメインストリームの客(20%)のことに重きを置く。
その人達は声も大きい。
そのような人達の声を真摯に聴くが故に、残りの人達の声が聞こえなくなる。


イノベーションのジレンマ

持続的イノベーション
・製品の性能を高める技術革新
・既存製品の性能を向上させる技術革新


破壊的イノベーション
・抜本的な技術革新ではない
・主要顧客の評価尺度では、すくなくとも短期的には製品の性能を引き下げる効果をもつ
・既存の客は評価しない
・顧客がどこにいるか分からないので探すしかない


ジレンマから脱却できない理由

・優良企業ほど主要市場の顧客の声を真摯にきいているが、平均的な顧客の水準を追い越してしまう
・破壊的技術は最初は市場がないため、優良企業の収益を支えることができない


ゲーム産業におけるイノベーションのジレンマ
・より豪華な商品をつくることが製品価値の向上につながらない
・開発コストは上がっているのに以前のようにゲームが売れない
・より豪華な商品を作っても売れないのは薄々分かっているのに、コストをかけざるを得ないジレンマ


ゲーム離れ現象への対応は?
・ゲーム人口の拡大を目指した
(年齢性別とわず)
 ・5歳から95歳までが対象という具体的な目標を設定した
 ・ゲーム経験の有無を問わない
 ・誰もが同じスタートライン
 ・家族の誰にも敵視されない
  (特にお母さんに(笑))
    ↓
 DSの登場
  当時のメディアの反応は良くなかった
  ありふれた技術を用いていたが、組み合わせ方がユニークだった


イノベーションのジレンマからの脱却、その鍵は?
・技術の進歩を従来路線と異なる方向に活用
ユーザーインターフェースを刷新し、より直感的に
・ノンユーザーに興味をもってもらうための工夫


いかにしてTouch Generationを開発したか?
・浅田篤さんから高齢者むけのゲームが必要なのではないか、という提案があった。かといってお年寄り用のソフトでは使用するお年寄りがあまりいい気がしない。そこで幅広い年齢層に遊んでもらえるゲームの開発を決める。


社長直轄のプロジェクトチーム「ユーザー層拡大プロジェクト」が始動
 ・脳を鍛える大人のドリルというのが当時流行っていて、これはDS向きだとおもった
 ・プログラマーがプロトタイプをささっとつくった

 それをもって川島先生にDSの発売日(偶然)に会いに行く
 動作するプロトタイプで提案
 その日のうちに脳血流測定し、太鼓判を押してもらう。


DSを印象づけるためにも、早く開発することが重要だと考えた。

・10名未満のチームで3ヶ月で開発
・いつか必要になると考えて作っていた音声認識、手書き用のライブラリがあった
 なので短期間でできた


お盆後に売り上げが伸びたことから、世代間コミュニケーションに着目
年末発売をターゲットとして「もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング」を開発開始

今まではロングテールのような曲線を描くのがゲームの売り上げの常識であったが、「もっと脳を鍛える大人のDSトレーニング」は年間を通じて売れる。岩田社長もこれは初めての経験。
敬老の日によく売れた。発売1年半以上後の正月にもよく売れた。

ゲームの定義が広がった。
シニア層や若い女性がゲームなどさわるはずがないという思いこみを破壊。


みんな、できないと決めているからできない。
誰かができるとできると思うようになる。
例 スポーツの記録を破ること
  フェルマーの最終定理の証明の別解の発見など


Wiiについて

操作などを説明しなくてもWiiはできる。

非連続かつ生活の中に自然と入っていけるようなゲームが必要だと考えた。
これがWiiのコンセプト


任天堂は次世代ゲームを作っているという認識はない
処理性能至上主義からのパラダイムシフトは携帯型でおこった
それでは据え置き型でもできるのではないか?


従来路線とは異なる方向に活用
・薄く、小さく、じゃまにならない
・静かで、消費電力も少ない
・TVのリモコンのようにだれでも直感的に使えるリモコンコントローラを採用


リモコンコントローラはどのようにしてできたか?
・コントローラ開発のための部門横断チームを編成
・ハードができるとソフト部門が試作ソフトをすぐに制作してフィードバック


リモコンコントローラ開発のあゆみ
・誰にでもさわってもらえるように複雑に見えないようにしたかった
・シンプル&ワイヤレスとしか最初は決めてなかった
・タッチパネルももちろん検討
段ボール箱2箱ぐらいの試作を作った

・DPD技術との出会い
・精度が高く応答性のよいポインティングが可能に
・なかなかゲームは両手でやるという呪縛から抜け出せず
・しかし一人がいっそのこと棒にしてしまおうと言い出す

・ワイヤレスであることを活かす自由度の高い遊びへ
・加速度センサーの搭載


リアルとは?
キャラクターはシンプルだが、プレイヤーはリアルに感じるのがWii


・最終段階でリモコンコントローラにスピーカーを搭載(ほとんどコントローラは完成していたが検討開始)
 音と振動のフィードバックがより臨場感を感じさせる。


Wiiのコンセプト
・家族のそれぞれにとって、興味がわくような用途を提案
・家族全員がゲームを楽しめるように


Wiiチャンネル
写真の加工などがみんなでできるように


ブルーオーシャン戦略
イノベーションのジレンマを抜け出すのに有効
・切り捨てるところは切り捨てる
・他社と違う軸で勝負する


任天堂が「イノベーションのジレンマ」を脱却するためにとった戦略はあとから振り返ってみると「ブルーオーシャン戦略」にそっくりだった。


山内博
「娯楽とはよそと違うことをするから価値がある」


会場からの質問

・今までのゲーム制作での失敗は?
 自分の技術には自信があったが、宮本さんよりも売れなかった。
 作り手の視点でしか考えていなかったので、それが原因で売れなかった。
 どのようにしたら人に話したくなるとかそんなとこまで考える。


・ユーザがゲーム開発できるようになる?

 興味はあるが、家庭用ゲーム機という性質上バグがあってはいけないこともあり、まだそのような仕組み(いかにエンドユーザが作ったものがバグを産まないか)を考えているようなところ。


イノベーションに関して、タイミングは?

 世の中で起きている時間的なタイムラグ(なにかが起こったらどのくらいの時間差で人々はどのような反応をするか)を観察し、自分たちもそのような変化にタイミングを合わせる。
 このままでいったらゲーム業界が終わってしまうという危機感があり、DSのようなものを開発
 このような成功は偶然の要素もある


・なぜ破壊的イノベーションへ?

 宮本茂が世界的にたたえられるのを目の当たりにしながらも、ゲーム業界が衰退していた。やはり危機感。

 トップだけが吠えてもだめ。しかし同じことを何回も繰り返し言った。もし何回言っても理解してくれないような人がいたとしても、繰り返し言うことに意味がある。

自分が印象に残ったところについては今度書く。