原丈人さん講演会@紀伊國屋ホール

書くのが遅れてしまったが、今週の日曜日に原丈人さんの講演会に行ってきた。
僕が原さんに興味を持つようになったのは、月刊アスキーのインタビューを読んだのがきっかけだったと思う。
紀伊國屋に行ったときに偶然この講演会があるのを知り、衝動的に申し込んで参加した。
原さんのお話はとてもおもしろく、もっと詳しく聴きたいこともたくさんあり、刺激的だった。
以下に簡単なメモや感想を。必ずしも原さんが講演会で話したことと同じ表現ではなく、僕が勝手にまとめたものです。ずいぶんと省略していてわかりにくいところもあると思いますが、僕の文章力のなさゆえ、ご了承下さい。


講演会は原さんがシリコンバレーで活躍して成功を収めているベンチャーキャピタリストである、との紹介で始まった。
まず最初の自己紹介のときの一節がおもしろかった。

自動車がどんなに発展しても飛行機にならないように、現在のITの延長上では解決できない問題がたくさんある。そのような問題を解決できるようなポストIT産業育成のために活動している。

つまりCPUやハードディスクの性能をいくら上げても、その原理上できないことはたくさんあるとのこと。その代表的なものに後で出てくる現状のデータベースに関する問題がある。


原さんは以前考古学を専攻されていたらしいのだが、ベンチャーキャピタリストとして今行っていること似ていることがあるという。

自分がいいなあと思っているときは他の誰も良いとは言ってくれない。
7年ぐらいそれらをずっと磨いているとみんなが良いと言い出す。
つまりその会社が公開したり、大企業と合併したりして初めて評価しだす。

よく言われることだけれども本当に革新的なアイディアや技術が多数の人に認められることはまずないんだということを再度肝に銘じておこう。


原さんがハーバード大学のヨセフ・セグマン博士とつくった、デジタルディスプレイに搭載する半導体やソフトウェアを提供するオープラスという企業などについて。

たとえばSONYという文字を画面に映し、そのまま拡大していくとバランスが崩れてもとのSONYのようにきれいには見えなくなる。そのためこのようなことを補正して画面に映し出すことが必要。そのような技術をセグマン博士の数学的アルゴリズムに基づいて開発していたのが、オープラスだった。この企業は5年かけて育てた。この技術を手にSONYに話を持ちかけたがだめだった。そのためLGやサムスンに(泣く泣く)売った。今やソニーはLGから技術を買っている。その後オープラスはインテルと合併した。古いリーダー企業が生き残るには新しい技術を持った小さな会社と合併するしかない。


これからの技術について

次の産業を担うようなコア技術は何に使えるのかを判断するのが非常に難しい。
コア技術を作っている会社はGoogleを含め、いわゆるネット企業には一社もない。
Googleは昔の技術をまとめ上げ、サービスを作り利益を上げている。
エンジンの発明以降の産業の歴史との類推からもわかるように、今のコンピュータ時代も終わりにさしかかっている。

Web2.0というのは(現在の)コンピュータ時代の最期を告げる呼び方と思うと良いかもしれない。


現在のコンピュータが人とインターネットをつなげる最適な方法ではない。
コンピュータはもともと計算機能に最適化されて作られており、今や普通の人々がコンピュータを使う最大の目的である、コミュニケーション用に最適化された新たなアーキテクチャが必要である。


そのための一つが構造化されていないデータを扱う「インデックス・ファブリック理論」である。
今のコンピュータは属性を定義して(構造化して)初めて、データとして認識することができるが、人間が解きたい問題の9割は構造化された問題として定義できない。そのためコンピュータを使ったシミュレーションは当てにならないことも多い。
たとえば人間のタンパク質は属性を定義することができない。それを今は人工知能を使って無理矢理属性を定義している。ガンの末期では抗生物質が必要になるが、それが本当に効果があるのは2割の人だけで、残りの8割の人は本来より寿命が縮まってしまう。もしコンピュータによってDNAから抗ガン剤が有効な人を判別することができたならば、8兆円ものお金を節約できる。これは日本の全税収を上回る。
構造化されていないデータは経験ある人間であれば読めるが、今のコンピュータは読めない。
ポストコンピュータによってこれらを実現したい。

僕としては抗ガン剤の話は初耳で衝撃を受けた。しかも抗ガン剤が必要な患者を判別できるようになればものすごい額のお金が節約できるとは。さっきニュースで聞いたビルゲイツの個人資産よりも多いなんて。こういうプロジェクトはそれこそGoogleMicrosoftを巻き込んで世界規模で行われるべきではないだろうか。


そしてこれからの日本について

2030年までに日本を最も税率の低い国にして、なおかつ税収が最も多い国にしたい。
これを実行するための実行計画を、どうやればいか実例を用いて具体的に書いて、自民党民主党の政治家の人たちにも見せている。


世界的に見ても現在は5年経っても成果が出ないものにはお金が集まって来ない構造になっている。
日本には短期的な利益を追求しないような市場を作るべきである。
金が金を生む手法を研究しているのが金融工学であり、儲かってはいるけれども世界にまったく貢献していない企業もある。


コア技術に投資した場合にはその分を税金から免除する、という政策も考えられる。


人口を考えると、中国やインドのほうが優秀な人は多い。
その力を日本に貸してもらう。そのためには海外に会社を作っても日本法人であるような仕組みが必要である。
ITのモデルはアメリカのマネをしている状況だが、これを逆転させ次の産業を作る会社を日本につくり、欧米の模範となるようにしたい。

そんな企業が増えれば、税収も増やし、税率を下げることが可能。
国の借金も20,30年で返していくことが可能である。


日本が世界で必要とされるために、欧米からだけではなく、本当に貧しい50ヶ国もの発展途上国から必要とされるようにならなくてはならない。
単なる食料援助だけではなく、自立して生活できるようにする。
飢餓をなくすためのタンパク質源として、スピルリナを育てる技術を開発している。


日本が他国から要請されて常任理事国に入れるように。
アメリカの最先端はすごいことばっかりのように見えるが、たくさんの問題がありそれらを解決するような手法を日本が提示できるようにしたい。

政治家の方々にもさまざまな提言をされているのだが、このようなことが行われているのは僕も今回の講演に行かなければ知らなかったことである。近年情報開示が叫ばれているが、日本政府にはこのような提言を含んだ情報をアクセスしやすいように公開してほしい。


会場からの質疑応答から

なってみないとわからないのかもしれないが、お金があれば幸せになれるというのは間違っている。
実際にお城のような家を買っている人も知っているが、幸せであるようには見えない。


10人から100人ぐらいの規模から始める。みんなをいっぺんに動かすというのは無理。


もう少し詳しくは下の本を参照。というかこの本の出版記念講演でした。

21世紀の国富論
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5 ベンチャーキャピタリストは必見
5 日本に本当に必要なこと
4 日本が進むべき方向性を示す


原さんはまさに紳士というか、ダンディーというか笑顔が素敵だったのが印象的だった。
日本の未来について大局的な視点で考え、かつ自分ができることを着実に実行している方だと感じた。
ぜひもっと話を伺いたいし、ブログを書いてくださることを強く希望。
次回のシリコンバレーツアーにパネリストとして参加していただけると、かなり良いと思う。


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